杜の響き  


 「杜の響き」
メッセージ 第78章
  新たな門出

   コロナ禍で開催が危惧されるオリンピックですがプロローグとして聖火リレーが始まりまし
  た。注目のスタートラインには東日本震災当時サッカーワールドカップ優勝の「なでしこジャ
  パン」のメンバーが登場、表彰式で世界に向け復興支援への感謝を込めた横断幕を掲げた入場
  が彷彿されました。
   
広大な宇宙の一点に存在する豊かな地球には多様な環境があり、天変地異により人類に 様々
  な災禍を齎しますが、中には人為的要素に起因する被害も多数含まれますが常態化した災害に
  は復興と言う門出が始まります。

   この度、私こと弊社の役員を辞することとなり、80余年の人生を回顧してみました。 小学
  3年で第二次大戦の終結を体験しましたが、食料品の配給行列で半日を費やす状況で「衣食足
  りて礼節を知る」が流行り言葉の社会でした。国費には東南アジア諸国への多額の戦争賠償と
  360円の固定為替レートもあって、毎年インフレに襲われ「働けど働けど我が暮らし楽にな
  らず」が庶民生活の実感でした。
   
青春期に入り鉱物資源不足の日本再興には技術立国と決めつけ、技術系への就職を決意しま
  した。やがて経済政策が功を奏して輸出大国となり、自由主義陣営で世界第二位の経済大国へ
  躍進を得た背後で、国家間の格差が広がり先進国、発展途上国ともに政治問題となり、毎年輸
  出規制が強化される事態に発展してしまいました。

   一方国内では産業活性化とともに環境問題がクローズアップされ公害六法の成立もあって技
  術職は環境対策に重点を移しました。
   
何時しか自国経済よりグローバルを視野にした経済発展が求められる社会に変貌して、二人
  称を尊重する感覚の重要性を再認識した時期でもありました。

   年を重ね日々の糧を年金に依存するに至り心機一転転居し、新たな地域で自治会、老人会、
  社会福祉協、観音堂等の端役に携わりながら、図らずも弊氏神神社の役員に推挙され今日に至
  り名誉と自認しています。

   教義を持たぬ神道に浅学の人生を反芻しつつ今生の意義を探求する機会ともなりました。
  既に鬼籍入りした3人の弟と共通信条とした父譲りの論語「德不孤、必有鄰」を基本理念に公
  益性に立脚した奉仕活動を追求して参りました。
   
因んで命名した鄰德苑は、昨年末改元記念に氏子の皆様からの浄財で奉築した庭園ですが、
  植樹した梅も先月初め開花し鏡前の粉を披いて春の訪れを知らせてくれました。德を通じた強
  固な絆醸成の拠り所として神社と共に絶えること無く存続することと信じます。
   
視野に無く自然界に内在する神恩を崇拝する精神は、多面的で掌握できず表示にも至りませ
  ん。今後、永続性を表す時間軸、人類愛に根差した奉仕精神の度合、護持継承する人々の生命
  等が包含した異次元の世界が科学的に表示される時代の到来に期待しています。幽玄の世界に
  は無限の門出を見出すことが出来るでしょう。

   10代のころ「人間は考える葦である」と唱えた哲学者の存在を耳にした記憶があります。
  考えることによる人間の無限性、宇宙の片隅で死による自らの物理的消滅を既知とする故に米
  粒にも満たない肉体に優位性を見出す心境として妥協してきました。人間による異次元への挑
  戦は果てしなく継続すると確信します。
   
やがて訪れる他生で、本欄のゴーストライターでもあった弟達との再縁が可能なら、諸々の
  課題の中で神徳を優先に論じて新たな門出としたく思います。

   末筆ながら10年程前神社関係者大会報告書を本サイトの巻頭言として採用頂き今日まで継
  続された編集者楠正利氏に感謝申し上げます。

 
   令和3年4月1日

  「 杜の響き 第78章 」
  澁川神社  森下千晴 記

                

                杜の響きへ続く   神社INDEX