杜の響き  

     
                「杜の響き」
メッセージ 第59章

                         
                神々の黄昏 
      

         ワーグナー作曲の舞台祝祭劇 「ニーベルングの指輪第4部 「神々の黄昏」を鑑賞
        する機会を得ました。 全曲は15時間に及ぶ楽劇で 「ラインの黄金」 「ワルキューレ」
        「ジークフ
リート」に続く最終部の4時間半ですが、物語は北欧の神話を題材としており
        場面は天上界の神々と地上の人間界に下層階を含めた領域に亘る世界で、男女間で
        結ばれる情愛の深さが描写されています。

          ライン川で得た世界支配が可能な黄金に纏わる欺瞞と策略による人間の権力と欲
        望を披歴しています。 結末は黄金で作られた指輪に懸けられた死の呪いにより主人
        公に悲劇を齎し、神々はライン川岸に放たれた炎に包まれ終焉となります。やがて返
        却された黄金の指輪により、ライン川の清流は回復し平穏な社会が取り戻されます。

         哲学的な思想の作曲者は宗教的な環境の下、差別や抑圧など数々の不条理な場
        面を描写する一方、聴衆に反面教師として人類愛、人生観の培養を期待したことと
        思われます。
         音楽的には、特定の人物や感情に一定の旋律を与える示導動機を効果的に多様
        していて、事物、心情、現象、背景など、様々な状況にモチーフを変奏、展開させ広
        汎で重厚な楽曲となっています。 演奏されるオーケストラも4管編成で、6台のハー
        プにバスクラリネット、 ワーグナーチューバ、 その他バス域の管楽器を加え、音色の
        対比を効果的に活用して歌詞との調和で聴衆の五感に響かせています。
         殺害された男性の終焉で奏でる葬送も後半で「剣の動機」を加えて明るく武勲の
        経歴を称え、また終曲で炎に身を投じる女性も奏でる「愛の救済の動機」により、悲
        劇にも拘わらず、晴れやかに魅了させられました。

          日本の伝統行事から神話の世界を座視すると、文字の伝来を五世紀として、記紀
        以前に如何なる口承が存在したか興味が湧きます。 文字文明により諸行事が定型
        化し、仏道でお盆に見られる精霊流し、先祖霊の送迎を祈念した家門の篝火があり
        また神道では年の瀬の大祓いで、穢れを託した形代の河川流し、歳神を迎えた門松
        注連縄で生む炎の左義長などの神事が連想されます。
         夫々に起源は解釈されていますが、人類が棲息する地の必要条件が、川の水と
        火に他なりません。単なる偶然ではなく、洋の東西を問わず神話の世界を創造する
        共通要素に思われます。
         「神々の黄昏」を鑑賞して、地域社会の弥栄と登場した男女主人公と同様に、互
        いの人生が晴れやかな終焉であることを念じます。 


                      令和元年 9月 1日 
                      「 杜の響き 第59章 」

                   澁川神社責任役員 森下千晴 記

                        


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