杜の響き  
      
             「杜の響き」
メッセージ 第52章
         
               
               
   
    
天皇譲位に伴う改元が5月1日に予定されており、粛々と準備が進行しています。
   在位中には象徴天皇の在り方を確立され、全国民から敬われる天皇となられ、また崩御
   とは無関係にご壮健の中で御意思により退位されることとなり慶賀に存じます。
    今後公式行事が順次執り行われますが、庶民的な祝典も加えて国民にとって、より一
   層明るく豊かな生活環境が得られることと期待しています。

    先般も名古屋市の某コンサートホールで「奉祝の雅楽」と称した皇室縁の管弦と舞楽
   の演奏があり鑑賞する機会を得ました。
    新春始め各種祝典で奏でられる有名な越天楽では、残樂三返の楽典が採択されました。
    暫時音を間引き聴覚の記憶を想起させる奏法です。一回目は笛の三管編成に筝、琵琶
   各二台と打物が加わり華やかな演奏で始まり、二回目では「音止め」により楽器を暫時
   減少し、三回目では篳篥・竜笛・筝・琵琶の頭による四名となり、更に「音止め」が継
   続して最後は琵琶・筝によるアルページオで終演となりました。観客に一回目の全奏楽
   を脳裏へ記憶させる巧みな手法です。

    他方バロック音楽でもハイドン交響曲45番「告別」の第四楽章で類似した演奏があ
   ります。13名の奏者による演奏で終楽のアダージオに入り管楽器・バス・チェロ・ビ
   オラ・バイオリン奏者が順次退場、最後は指揮者とコンマスのみとなり慰め合って幕と
   なります。根拠はエステルハージ侯の離宮での演奏会が長期に亘るため楽団員の帰郷を
   促した結果とされています。ハイドンの機微に富んだ演出が連想されます。


    他にも更に飛躍した無音で訴える音楽があります。当欄第43章で紹介したジョン・
   ケージの「4分33秒」です。ピアノ協奏曲でありながら一音も奏する事のない音楽で
   す。根拠を勝手に物理学で分子活動の停止する絶対零度(-273℃)と関連付けした
   解釈をしています。聴覚を除外して、精神を鼓舞する音楽の存在から、静寂な心身の中
   に科学的な立証が得られない深淵な境地が推考されます。ハイドンは主宰者への要望、
   ケージは聴衆の自由奔放な解釈を求めています。

    越天楽残楽三返は、音程と間合いにより洋楽のアルページオに較べ一層重厚感があり
   長い歴史の中で培われた独特の日本文化が感じられました。
    神社で斎行される各種祈願は、雅楽が醸し出す厳かな雰囲気の中で、祭司の祝詞を道
   標に夫々無言で、念ずることを交えて営まれます。短時間でも穢れなき健全な精神を育
   むことになれば意義深い神事と相成ります。
 
            平成31年 2月 1日 
 「杜の響き」 千雅翁 


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