杜の響き  
      
             「杜の響き」
メッセージ 第47章
         

               四海皆兄弟 

     徳島県鳴門市に阿波国一宮として、崇敬されている大麻比古神社がある。社名から
    古代この地では氏子の人々が麻・楮の植栽により当時珍重されていた麻布・木綿等の
    織物に励み、地域の殖産興業に多いに寄与したと推測されます。境内に拡がる庭園の
    一画には由緒を秘めたドイツ人手造りの橋があり、一つは板東谷川に架かる全長9m
    石造りのアーチ橋で、今一つは造成した池に架かる眼鏡橋です。

     今より百余年まえ第一次世界大戦時、日本軍の捕虜となった多数のドイツ兵が日本
    各地に収容されました。この神社に程近い約1kmの地にも坂東俘虜収容所が設けら
    れ約1000人が収容されていたと言われます。戦時下に於ける捕虜の処遇は国及び
    場所により情緒的に著しく異なり、中でも当所に伝わる逸話は心温まる史実として伝
    承されています。

      当該収容所の所長は、時代背景に拘泥することなく温情の人生観で捕虜に対峙して
    人道的で且つ寛大な対応を遂行、僅か三年足らずで双方に強い絆を醸成しました。
     収容者の中には、技術、芸能、文化、職人、料理などで、多士済々の人々が多く、
    信頼関係を得た彼らが日本文化への関心と理解を懐くに然程時間は必要ありませんで
    した。
     探求心旺盛なドイツ人であり周辺の古跡を訪れ由緒並びに日本固有の神話にも興味
    を抱いたと思われます。伊弉諾尊が青海原を掻き回した矛の先から垂れた雫が凝固し
    て日本国が創生した神話の背景を、鳴門の渦潮おのころ島など周辺を俯瞰し納得した
    ことでしょう。とりわけ風光明媚な景観とお遍路さんへの接遇慣れした人々のおもて
    なしに接し大和魂の根源を見出して異教に拘らず持続可能な神社と言う場所を選び記
    念に前記の橋梁を構築したと思われます。
     更に、平和を願う彼らは証としてクラシック音楽も提供しました。 年末に各所で
    演奏されるベートーヴェン第九シンホニー「合唱付」で、日本国内初の全曲70分の
    演奏となりました。

     今春、百周年を記念してドイツ人関係者を招き演奏会が開かれました。「すべての
    人々は兄弟になる」と言う平和と愛という普遍的なテーマを奏でる楽曲で、苦難の境
    遇からやがて歓喜に至る第四楽章の合唱は何度聴いても感動させられます。特に最終
    の「星空の彼方に必ず神が住みたもう」は印象的です。
     東北震災の折ベルリンフィルのチャリティーコンサートで選曲、また東西ドイツ分
    断時のオリンピックで統一チーム賞揚曲にもなりました。東京オリンピックでは世界
    中から歌い手を募り歓喜の歌声を轟かす企画がされている旨の報道もありました。
     当欄の年頭のご挨拶で述べた、論語「四海皆兄弟」の世界観が共有されることを願
    っています。

          
                平成30年 9月 09日 記
 
                   「杜の響き」 千雅翁 

 

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