杜の響き  
      
         「杜の響き」
メッセージ 第43章
           
       
   一ヶ月余の入院を経て我が家に帰りベランダで気懸りな愛犬と再会することとなった。
   吠えることなく、甘えの声と共にコルセットを纏った身体に前足をいっぱい伸ばし、
  飛びついた歓びの仕種に、体調に気遣うことなく思わず抱きしめてしまいました。
   椅子に腰かけ顔を撫でると股間に頭を埋め一時が過ぎ、留守中の謝罪を込めた声掛け
  をすると潤んだ眼差しで理解した様子で応えてくれ胸に熱さを覚えました。
   滞った新聞に目を通している間、セラピー犬らしく絶えず体の一部を接触し続けるの
  を拒むことなく静かに時が経過しました。 人は言葉の利便性により意思伝達がなされ
  日常生活を形成していますが、共通語を有しない犬との間柄で強い情愛を感じ、聴覚に
  頼らぬ心の連携について雑考して看ました。

   クラッシック音楽に興味を懐いた青春時代、前衛音楽家ジョン・ケージの4分33秒
  のピアノとオーケストラによる楽曲に驚愕させられたことを記憶します。三楽章の構成
  で有りながら聴衆の前で一音も奏でることなく終演する音楽です。
   4分33秒の設定根拠を勝手に273秒に置換え物理学で分子活動の停滞する絶対温
  度零(Δ273℃)関連付け、無音で無我の境地に誘い各自に瞑想を求めた曲と理解し
  ています。

   一方、人間社会では如何なる理性的な言葉でも説得不可能な状況に遭遇することが少
  なからず存在します。 部族間で発明した言葉遣いによる伝達に限界が存在する証です。
   齢を重ね顧みれば、数多の意思伝達に歯がゆい場面を体験しましたが、五感から得た
  情報を優先し過ぎた判断にも感じられます。浅学の身で既成概念に捉われない宇宙的視
  点で考察しながら、この世には音波、電波磁場、放射線を始め科学的に立証される全て
  の物質をも遮断した時空があって、霊魂など万物に共有される非科学的事象が介在する
  媒体を主要素とした異次元の分野が発見され、AIとの競合を夢想する昨今です。

   参詣者の皆さんには、祈祷に際し静寂のなか神恩感謝祈願等を心に念じることになり
  ますが、聴覚に頼る事無く神様に通ずることと存じます。  結び


               平成30年 6月 1日 記
                 「杜の響き」 千雅翁 

   

                 

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