「杜の響き」メッセージ 第32章

 


    

                 
               優雅な二星の祭に心寄せて

            乞 巧 奠 (きっこうてん)

       
  中国を中心に東南アジアで発展した文明の中、夏の夜空に煌めく膨大な数の
 星を眺めつつ、恒星の密集した天の川を境に織姫が彦星に出逢いに行く物語と
 して、二星(たなばた)=七夕が発祥したと言われます。宇宙的発想に基づい
 て出逢いを願う催事は、汎用性があり祈願祀りの代表例に感ぜられます。

  過日この七夕に因んだ行事として、京都冷泉家に伝わる「乞巧奠」を鑑賞す
 る機会に恵まれました。語源の中国語から、技巧を乞う祀りと解されます。
  ステージ中央には各種の供え物を配した「星の座」と称される祭壇が設えら
 れ斎竹に囲われた中で最初の演目、蹴鞠が披露されました。
  狩衣と挂袴(うちきばかま)装束で動作にもどかしさも感じられますが、
 サッカ-と異なり、鹿革製軟鞠を如何に蹴り続けるかの遊戯で、相手を労わる
 精神が強く現代のスポ-ツ競技の感覚とは合致しません。
 
  次に雅楽が笙、篳篥、竜笛の二管編成に太鼓、鞨鼓鉦鼓、箏、琵琶が加わり
 音取りに続き、唐楽の「胡飲酒=こんじゅ」が奏されました。天平年間に中国
 より伝えられた、酒宴での王の振る舞いを表した一人舞の楽部です。引続き雅
 楽と共演で「二星」が詠じられ管弦の宴は散会されました。発展した西洋音楽
 に特化された人々にとって雅楽は、独独の和音とリズムにより一瞬前衛的音楽
 に感ずるかも知れません。

  やがて夜の帳がおりて宴が変わり、兼題「七夕鳥」を基に和歌披講が始まり
 ました。何れの歌にもカササギが詠まれていて、伝説の根拠に興味が生じまし
 た。
  「流れの座」に移り、男女5組が天の川に見立てた白布を境に向き合い、手
 持ちの白紙に和歌を認め応答交換が始まりました。和歌での恋愛文通に高貴な
 情愛を感じます。現代の若者は、流行のスマホで花文字交じりのどんな文面が
 伝達されているのか興味を覚えます。

  雅宴を通じて、改めて800年に亘り和歌の宗家として、文化遺産を守り続
 けている冷泉家に敬意を感じる共に、由緒ある幣神社に於いても関係者一同が
 温故知新の精神で、時代の変遷に対応した運営を携わって参ります。


              平成29年 7月 7日
                千雅翁 筆 



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